「蒼星の天馬」に伺った時に、マスターの羽村さんが仰っていたのです。

「店に来た地方のアクターさんがさ、『俺、テンマレンジャーなんですよ』とか言うわけ。でも俺にとってはテンマレンジャーは蜂須賀昭二さんだからさ、そう言われてもな…ってなるのよ」

一緒にキャラクターを作ってきたスーツアクターさんが唯一と思うのは、実際に変身前を演じ変身後の声を入れてきた俳優さんだからこそ断固たるものがあるのかもしれません。

因みに蜂須賀昭二さんは名女形と名高い蜂須賀祐一さんの双子の弟さん。この戦隊の女性戦士ホウオウレンジャーのアクターさんは女性で、お名前は村上利恵さん、現在の高岩夫人です。

羽村さんが仰る前から私も考えていたのですが、テレビのスーツアクターさんとヒーロー・ショーのアクターさんの一番の違いは、「そのキャラクターをゼロから作り上げたかどうか」ではないでしょうか？

言い方は悪いかもしれませんが、ヒーロー・ショーのアクターさんはその「物真似」をしているに過ぎない。

先のテンマレンジャーの人だって蜂須賀さんの動きを真似ていたはずです。だってそうじゃなかったら最早テンマレンジャーではないのですから。

テレビのアクターさんはベテランが多いので、ショーのアクターさんの方が若い分身体は動けるかもしれない。しかし「動けるから蜂須賀昭二さんより上」なんてことは絶対にない。

以前お付き合いのあった大阪で一番大きなアクション・チームの人が似たようなことを言ってたんですよね。「うちの誰だれは高岩さんよりジャンプが高い、蹴りが鋭い、福沢さんよりスリム、演技が上手い…云々」

ついでに一般より情報が早く入って来るので、ネタバレ嫌いの私にめっちゃネタバレしてくる。あれは自慢だったのかもしれないけど…なんだかウンザリして距離を置いてしまいました。直接は言えないですしね。

「そうは言ってもやってることは高岩さんや福沢さんの物真似でしょ」

…とはさすがに言えませんて。プライド傷つけてしまうし。

でも事実だと思います。どの役もテレビの撮影に向けてスーツアクターさんが変身前俳優さんと「ゼロ」から創り上げたもの。そこから外れたらもうそのキャラクターではない。

ちょっと違うけど、テレビのアクターさんとショーのアクターさんの関係は、宝塚の本役さんと新人公演の下級生に似てるなと思いました。

新人公演のキャストは別に本役さんの真似が必須ではないのでそこは違うのですが、真似から入る下級生は多いです。演技の初歩でもありますしね。

まず「本役ありき」なのです。どんなに出来がいいと言われても一人本公演にポンと入ったらバランスが悪いですよね。端役ならともかくメインだとどうしても浮く。

「エリザベート」なんかはキッチリ代役稽古もして、順繰りに休演者の穴を埋めますから、そこまでの違和感はないのでしょうけれど。

まあ別に新公キャストが「偽物」とは思いませんよ。演る側にも「本役さんありき」という意識はあるでしょうし、「私は本役さんより上手い」と驕る人も滅多にいないでしょうから。

羽村さんも「蜂須賀さんじゃないからって『偽物』とは言わないけどね。今の時代にダイレンジャーをショーに出してくれるとか嬉しいし」と仰ってました。

「ひらかたパーク」という昔からの遊園地があるんです。私とか幼稚園や小学校低学年の頃、遠足でよく行きました。なんてことのない地方の遊園地なのですが、有名だった「菊人形」が廃れてから近年、ジャニーズの岡田准一さんを「園長」に任命したり何故かヒーロー・ショーに力を入れたりして、存続の危機を乗り越えました。

そこのヒーロー・ショー担当の職員さんが「ダイレンジャー」の大ファンで、どうしてもひらかたパークでショーをやりたい…と東映に連絡して来たそうです。羽村さん達にも連絡があったとか。

「そういうのはね、純粋に嬉しいよ。昔のヒーローなのに、今やってくれるなんて嬉しいしかないよ」

たぶんですけど、オリジナルのスーツアクターさんに敬意を持って演じてくれるアクターさんには羽村さんのような人も好意を持てるんだと思います。

ショーに関してもオリジナルを大切にするアクターさんは好感が持てるし、ショーを観ている間「偽物だ」とは感じない。

オリジナルを蔑ろにするアクターさんの演技は独り善がりで好感が持てない。だから「偽物だ」と感じる。

極論を言えばテレビで演じているスーツアクターさんは「本物」、それ以外は「偽物」。けれど、そんな単純な話ではない…ってところです。

漫画「トクサツガガガ」にもこの話題が出てきますが、「ショーを観て楽しんでいる間は、ショーのアクターさんも偽物だけど本物」なのかもしれませんね。

だってね、本役さんを舐めてる人って観てて分かりますもん、ヒーローも宝塚も…ね。

不二子