追悼・柴田侑宏先生
柴田先生に最後にお会いした時、既に先生のお目は悪く常にどなたか介添えの方がいらっしゃいました。
「柴田先生にお会いするのはきっとこれが最後だ……」
そう思った私は僭越ながら少しばかりのお話と握手をさせていただきました。
あれから20年程。私の勘は当たり、二度とお会いする機会なく先生は彼岸へ旅立ってしまわれました。
リアルでは私は演出家と先生を「さん」「くん」、渾名呼び、呼び捨ての方もいらっしゃいます。その中で柴田先生だけはリアルでも先生と呼んでおります。尊敬できる演出家でした。駄作も中にはありますが、100%名作を世に出せる作家などいません。打率の高さは宝塚屈指と私は考えております。
柴田作品は文学性・格調の高さゆえ合わないと感じる方もいらっしゃるかと思います。しかし「ベルばら」以降の宝塚の屋台骨を支えたーー時代を作った演出家の筆頭であることは間違いありません。
因みにもう一人の屋台骨の方は私が吐き捨てるように呼び捨てにしている方です。誰かお分かりになると思いますが。
柴田作品をここで挙げるにはあまりに名作が多過ぎます。再演される作品が多いことも特徴の一つと思いますが、それだけ骨格のしっかりした作品が多いという証左かと。
私が宝塚に興味を持ったのはベルばらでしたが、宝塚ファンになったのは柴田作品のおかげでした。初演「星影の人」、この作品がなければ私は宝塚ファンにはなっていなかったでしょう。
ズラリと並んだ浅葱色のダンダラ羽織、新選組自体はもっと子供の頃から知ってはいましたが、宝塚で観たそれは痺れる程カッコ良かった。
爽やかな風のような汀夏子さんの沖田総司、大人の男の色気が凄まじい麻実れいさんの土方歳三、はんなりとした中にも強さを感じさせる高宮沙千さんの玉勇…男役にも娘役にもたくさん役があり、それぞれがとても魅力的な登場人物でした。
この作品が私に舞台の面白さを教えてくれました。小学生の私に、柴田先生がそれを教えてくれたのです。私の人生を決定付けた出来事でした。以来、宝塚に限らず舞台というモノに取り憑かれた人生です。良し悪しは分かりません、後悔もありました。しかしそれでも私は舞台から完全に離れることは出来ません。全てはあの時に決まってしまったのです。
発泡スチロールに生クリームをデコレーションした偽物のケーキなどではなく、柴田先生の作品は時に地味ではあってもちゃんと中身のある本物でした。
偶に材料の配分を間違えてヘンテコなモノが出来上がることもありましたが、それも今となってはご愛嬌。
誰が何と言おうと、柴田先生は数々の名作を世に送り出した宝塚屈指の演出家です。
才能と引き換えに天は健康を奪ったのでしょうか…この世は本当に残酷なことばかりです。
柴田先生にとってこの生が幸せなモノであったなら良いのですが…御心を知る立場にない私には祈るくらいしか出来ません。
人がこの世を去った後どうなるのかなんて私には分かりません。ただ、願わくは柴田先生が幸せでありますように。先生の望むその先に辿り着きますように。
私はただ祈るだけです。
さようなら、柴田侑宏先生。
あなたの作品が大好きでした。
本当に、大好きでした。
今はーーただ安らかにお眠りください。
合掌。
不二子