ギフト
「才能」と書いて「ギフト」と読む。誰が言い出したのか、ラノベなんかにもよく有る表現なんですけどね。意味合いとしては「才能とは神様からの贈り物」という感じです。それは誰でも貰えるわけではなくて、選ばれた人だけが与えられる。だからギフトを貰った人は天才なのだと。
漫画が原作だと知らずにDVDで観たミュージカル「さよならソルシエ」、そんなギフトと或る兄弟の物語。
フィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟テオドロス・ヴァン・ゴッホ。
私はたまたまゴッホについて書かれた書物を読んでいたので、ゴッホ兄弟のことは知っていたのですが、まあ世間的には画家の方の兄しか知られていませんよね。
原作の漫画の方は買ったのにまだ読んでいません。そのうちそのうち。
ミュージカル版はどうやらW主演ですが、やはり主となるのは弟テオドロス。何しろ兄の絵を愛するあまり、兄の死後「狂気に塗れた炎の画家」という虚像を作り上げ大衆の興味を惹き、遂にはフィンセントを有名天才画家に仕立て上げる。
ゴッホは紛れもなく天才ではありますが、時代が彼を受け入れなかった。その殻を破る為に壮大な嘘を吐く弟の激しく深い愛。
テオは本当は画家になりたかった。けれど彼には絵の才能はなかった。その代わりに画商としての才を授かっている。
フィンは何にも縛られずふわふわと、怒りの感情を持たず世界の全てが美しいと筆を取る。授かったギフトのことさえ気にせず、ただただ絵を描く。
テオの兄への愛憎は凡人の身として分かるように思います。テオが授かったギフトも素晴らしいんだけど、望んだものではないんだものね。
翻ってフィンのテオへの兄としての愛も分かる。
私、いい歳して気持ち悪いくらいシスコンなんですよ。妹の一人は結婚もしてるのにね。義弟とも仲良いんだけど万が一ヤツが不貞を犯したらボコボコに殴りに行くと思います。
無条件で可愛いんですよ妹たちが。たぶん姉妹に生まれてなければ友達になってないだろう程に性格が違うのだけれど、今はもう姉妹であり親友でもある存在かな。
シスコン姉として超ブラコンのテオの気持ちも、普通の姉として普通に兄であるフィンの気持ちも、分かる気がする。いかんせん私は何のギフトも与えられていない凡人なので感覚は違うのかもしれないですが。
テオ役を良知真次さん、フィン役に平野良さん。実際には良知さんの方が年上です。良知さんって美弥るりかさん主演の「瑠璃色の刻」のフィナーレの振り付けをしてらしたんですってね。
どちらも上手い役者さんだし、他のキャストも実力派揃いで見応えがありました。
実は何回観ても泣いてしまう作品です。いろんな感情が渦巻いて自然に涙が溢れてきます。
「ソルシエ」とは「魔法使い」。まるで魔法のように絵画を売る手腕を持つテオドロス。画壇に背き新しい才能を世に出す為にテオはあらゆる手段を講じる。そんな天才画商テオの唯一無二の天才画家が兄。
一見冷徹なテオの愛は激しくて鋭い。史実では妻子のいるテオ、息子には兄と同じフィンセントの名を付けています。兄が客死した一年後にテオドロスもこの世を去っています。いやぁ…いろんな意味で奥さんご苦労様でした。こんな超ブラコンの妻ってしんどかっただろうなぁ。
シャープな見た目に物腰のテオドロス良知さん。綿雲のようにふわふわと可愛いフィンセントの平野さんーー「憂国のモリアーティ」の次にこれを観たのでシャーロックと同じ人と思えず混乱しました。
役者さんってすごいですよねぇ。あんなにガラリとイメージが変わっちゃうんだ。これ逆でもビックリしたな。
良知真次さんはねぇ、私のイメージだけの話ですが若干「器用貧乏」な面があるように思えます。歌えて踊れて芝居も出来て、振り付け師も出来る。MCの仕事も多い。結婚してるから家族を養う為に仕事を選んでられないのかもしれないけど(勝手な憶測です)、もっといい仕事できるはずなんだよなぁ…。テオドロス役観ていると余計にそう感じます。
天才肌の平野さん。30歳前までは台本は1、2度読めば全部覚えたそうです。30を超えて初めて家で台本を開いたとか。でもまだまだ本物の「ギフト」を授かっているかは分かりませんね。しかし画家と違って役者は生きているうちに評価されないとね。
別に無理やり話を繋げるわけではありませんかが、望海さんもまた間違いなく「ギフト」を与えられし者。少なくとも「宝塚の男役としての歌」のギフトは授かっている。
このギフトがどこまで本物か、私は見定めたいと思っています。
最後にこの「さよならソルシエ」で一番好きな台詞。
『僕に与えられたギフトって、本当は君(テオドロス)のことじゃないかなぁ』
胸を張ってシスコンを自称する不二子
ミュージカル「さよならソルシエ」 [DVD]
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