男役の「声」
無理に押し潰した男声が苦手です。誰とは言わないけど、これまでにたくさんいらしたかと。
世間の宝塚男役のイメージもそうですよね。男性ですら男役っぽく振る舞う時はそんな声を出す。芸人さんがやることが多いけど、昔は殺意を覚えました。
だからでしょうか、望海さんの声を初めて聴いた時に受けた印象は衝撃と言っていい。
何という無理がない自然な発声。強靭な咽喉。身体的な才能とテクニックを駆使するセンス。ちょっと他人には真似出来ないと思いました。
上手く説明出来ないのですが、望海さんの声は上から下まで引っ掛かる箇所がなく、高速エレベーターのように音階を移動する。望海さんは自在にそれを操り、時折アクセントにガナリを入れる。いやはや、この人は凄いと思いました。
私は声楽の先生に「あなたには地声と裏声の境がない」と言われたことがあります。当時の音域は3オクターブ2度が限界でしたけど。
元がアルトなのでやっぱり低い方が得意でした。私が挫折した理由はいろいろありますが、ホリプロのレッスンで四季の養成所からのソプラノの子がいまして。その子の歌を聴いて「あーやっぱり本物のソプラノには勝てないなぁ…」と実感したこと。当時のミュージカルは女声は高ければ高いほど良い、という風潮でしたから。
他には、声楽の先生にオペラをやらないかと誘われたけど…オペラで食べていけないのは明白だし、何よりオペラに興味がなかったこと。
後はまあ、何より自分自身に才能を感じなかった。声は出るけど「歌」ってもちろんそれだけじゃないし。
年齢と共にどんどん低くなって今ではカラオケで宝塚の男役の歌さえ高くて歌えない。娘役の歌なんて全く無理です。
特撮ソングを歌い過ぎたかな……。圧倒的に男声が多いし、串田アキラさんとかガラガラな上にガナリ倒すし。
「百獣戦隊ガオレンジャー」(金子昇さんや玉山鉄二さんのデビュー作)なんか昔は歌えなかったなあ〜。今余裕だわ〜。
男役さんにありがちな「上から押し潰した声」は通りが悪くなるという欠点もあります。当たり前なのです、前に発すべき声を下に押しているのですから。
もちろん好みがあるので、そういう声が好きというのは有りです。有り有りです。
ただ私は発声の段階で無理がない方が、歌そのものの上達も早いと考えます。
宝塚の男役スターで歌に高評価される方はすべからく自分にとって無理のない声を持っている。それは事実だと思います。
望海さんの歌はとても聴きやすい。男役として歌っていない「そばにいて」は宝塚退団後のミュージカル女優への可能性を大いに感じました。
望海さんのガナリは、涼風真世さんのドスの効いた声に通じます。望海さんの声は硬く涼風さんの声は柔らかい、その違いかな。
声質は生まれつきだけど、工夫次第で素敵な男役声は作れるはず。
下級生の男役さんには自分だけの「素晴らしい声」を見つけて欲しいなと思います。
不二子