20世紀号に乗って・6
「望海風斗にコメディが出来るの?」
そんな言葉をチラホラと聞きました。蘭寿とむさんサヨナラ公演「ラスト・タイクーン」のブロンソンや「エリザベート」のルイジ・ルキーニ、雪組に組み替え後もシリアスな役が多い。トップになってからも悲劇ばかり…となると、そんなイメージが出来上がってしまうものなのですね。
後は先日も書いたけど「ルパン三世」の時の早霧さんのアドリブ攻撃(笑)に四苦八苦していたせいもあるのでしょう。
しかしながら。
望海さんが研1で蘭寿さんのお役を新人公演で演じた作品「天使の季節」はコメディでした。駄作ですけど。研2でトリプル・キャストとはいえ実質2番手の貧乏神の貧ちゃんを演じたバウホール公演「くらわんか」も落語を原作としたコメディ。
そして望海さん唯一のバウ主演作品「Victorian Jazz」もコメディ・タッチな作品です。
他にも「銀ちゃんの恋」のジミー、「フィフティ・フィフティ」の警察官カーク、皆んなコメディです。
確かに望海さんには悲劇が似合う。髭に傷にダブルのスーツが似合う。
でも! コメディだって上手いのです! アドリブが苦手でもコメディは出来るんです!
……あー、ちょっと興奮し過ぎました。すみません。
「20世紀号に乗って」のオスカーはめちゃくちゃ面白いです。めちゃくちゃな人なんだけど周りをグイグイと引っ張っていくバイタリティを持った、ダンディな…変人です。
強引、傲慢、卑怯、誇大妄想…なのに魅力的な、罪な男です。
オスカーって舞台を作ることが人生の全てで、たぶん女性にはあまり興味のない人だったのではないかと思います。その彼がぞっこん惚れたのがリリー・ガーランド。
芸名のリリーと本名の彼女の区別なんか知ったことじゃないと思っている男。リリーの全部を愛して、リリーの全部を手に入れたい。我儘で欲深いコブラ男。
ま〜息も出来ないくらいの独占欲から逃げたくなるのも無理はない。
リリーはオスカーから逃げ、映画スターとなっていろんな男と付き合った。でも心はずっと彼に囚われたまま。
コブラとマングース夫婦、良いじゃないですか。きっと結婚式の翌日には大喧嘩。お騒がせ夫婦として有名になりますよ。
傍迷惑な見た目イケオジのオスカー・ジャフィ、彼に息を吹き込み望海さんは自由にのびのびと舞台を楽しんでらっしゃる。
何度でも言います。コメディの命は「間」です。望海さんは大胆な役を実に緻密に演じてらっしゃる。アドリブ頼みの雑さは何処にもない。
歌の素晴らしさと計算された演技、それを感じさせない程の余裕。だからこそ真彩さんがまるで望海さんの掌の上で踊っているかのように感じるのです。
それを包容力と呼んでいいのかは私には分からないけれど。
そりゃあ気力も体力も使うでしょう。そうでなければ手綱を取れない作品なのですから。
出来れば大劇場でもコメディ作品をやって欲しいなあ。良質なオリジナル・コメディを。
円盤にならないBWはもうゴメンよ!
BWを恨む女S・不二子